ドラッグデリバリーのための樹状ポリエステル構造体
Dr. Jamie Godfrey1,2, Dr. Michael Malkoch2
1Polymer Factory Sweden AB., 2KTH Royal Institute of Technology
Material Matters™, 2020, 15.3
はじめに/背景
デンドリマー、デンドロンおよび直鎖・樹状ハイブリッドは、多数の分岐をもち、したがって周縁部に多数の官能基を含む合成高分子群です。これらの分子は多層構造になっており、各層を世代と呼びます。このような構造によって高度な制御を実現した真のデンドリマーは、他の広範囲な高分岐ポリマーのグループとは異なり事実上欠陥のない構造を呈するため、分子量、末端官能基の数、およびナノスケールのサイズのすべてを制御できる点において他の追従をゆるしません。そのため、バッチごとの極めて優れた一貫性が得られます。樹状高分子はこのように独特な特性を持つため、生物医学的アプリケーションにおいて、特にドラッグデリバリーシステム、イメージングプローブ、および標的成分の導入を設計する上で、魅力的な候補となっています。このように、デンドリマーおよびデンドロンは、より明確に制御されていない対応するポリマーよりも、以下などのいくつかの利点があります。
- 周縁基の数が大量かつ正確な数であるため、標的となるアミノ酸配列または他の生物活性ユニットに対する薬剤分子の大量かつ正確なペイロード
- バッチごとに一貫性があり、また欠陥がないため、構造活性相互作用の予測可能性と再現性が高い
- 基礎部分から末端にいたるまで本質的にカスタマイズが可能なモジュール構造のため、生理学的条件における溶解度と分解を調整できる
- 十分に定義された内部に基づく受動的送達システムとして、疎水性または親水性薬剤をカプセル化できる
- 送達を可視化するためのイメージングプローブを薬剤に加えて搭載した二重機能ナノキャリアなどのように、同じキャリアで複数の動作モードを組み合わせることができる
デンドリマーのタイプ
Vögtleら1 、Newkomeら2 およびTomaliaら3 は、デンドリマーの合成の先駆者であり、Tomaliaの貢献によって、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマーは最初の市販されているデンドリマーファミリーになっています。PAMAMデンドリマーは、連続的なアミンおよびアミド結合の形成を経て構築され、最終的に周縁部に表面アミノ基をもつ高分子となります。
PAMAMデンドリマーは、いくつかの細胞株に対してかなりの細胞毒性を示します4-6 。また、比較的加水分解に対して安定な内部構造のために体内で適切な時に分解することが困難であり、生体適合性は低くなっています。さらに、合成中の避けられない副反応は、しばしば構造的欠陥をもたらし、分子の分岐構造の純度および精密さを低下させます。例えば、第4世代PAMAMデンドリマーの場合、欠陥のない製品は8%に過ぎません7。
Hultらは、ポリエステルスキャフォールドを用いたデンドリマーのクラスを1996年に導入しました8 。それ以降、多機能性デンドリマー、デンドロン、および線状樹状ハイブリッドのブロック共重合体の広範囲に及ぶライブラリが生み出され(図1)、それらの多くはMilliporeSigmaやPolymer Factoryによって販売されています。 他の広く使用されているデンドリマーとは対照的に、bis-MPAデンドリマー類は、 in vitro 毒性が低いまたは全く無い、特異的な in vivo での臓器への蓄積がない、免疫原性プロファイルを示さない、そして生理的条件下で生分解性という特徴があります4,5 。これらの分子を生物医学的な応用およびドラッグデリバリーシステムにおいて魅力的にする他の特性には、可能な構造(例えば、対象分子のリンカーおよびシグナル増幅器として2つの直交する機能性を示すデンドロン)の幅広さ、ならびに薬物または生物活性基質で簡単に修飾できる様々な反応性基を有する構造の多様性があげられます。bis-MPAを基盤とするデンドリマーの構造的な完成度の高さは、質量分析のキャリブレーションに用いる標準物質としての使用によりさらに強調され、第5世代まででさえも構造欠陥は検出されませんでした9 。ここでは、bis-MPA樹状材料を用いて実現したドラッグデリバリーと関連するアプリケーションのハイライトを紹介します。

図1.シグマアルドリッチから市販されている機能性bis-MPAを基盤とする樹状構造の例。
ドラッグデリバリーおよびターゲティングのためのbis-MPA樹状構造体
ほとんどの高分子ドラッグデリバリーシステム(DDS)は、2つのカテゴリーに分類できます。つまり、薬剤を疎水性またはイオン性相互作用によって物理的に送達血管内に取り込む受動的な手法と、高分子スキャフォールドに薬剤分子を直接共有結合させる手法です。
受動取込みによる送達
樹状高分子を用いて受動的にカプセル化する方法は、主に次の2つの手法のいずれかに基づいています:第一は、両親媒性のbis‐MPA直鎖・樹状ブロックコポリマーに基づくミセルおよび他のナノ構造の形成です。第二は、薬物分子のような非極性の物質を格納するための疎水性内部構造を維持しながら水溶性とする親水性コロナによる樹状構造の修飾です。
NyströmとMalkochのグループは、抗癌剤のミセルキャリアとして、ポリ(エチレングリコール)(PEG)直鎖・樹状ハイブリッドと、それらよりも構造が精密でない超分岐型類似体の両方を評価しました10 。著者らは、薬物を封入していないキャリアは、試験した癌細胞株に対して用量依存性の毒性を示しませんでしたが、薬物を封入したミセルは、フリーの薬物よりも有効性が高いこと確認しました。続いて、Malkoch、Hawkerらはこの研究を発展させ、PEG bis-MPA直鎖・樹状ハイブリッドの二つの機能性を利用して、ナノスケールサイズの蛍光標識超分子自己集合体を構築しました11 。ナノキャリアに約20 wt.%のドキソルビシン(DOX:doxorubicin)とトリプトリド(TPL:triptolide)を担持したところ、ヒト乳癌細胞株に対する治療効果は、それぞれの薬剤および両者を併用して用いた場合よりも高くなりました。加えて、この直鎖・樹状構造の精密さに基づく蛍光タグは、ナノキャリアの細胞内追跡を可能にし、有効性が改善された機構を細胞レベルで解明しました。Frechetらも、PEG直鎖・樹状ハイブリッドを用いて、弱酸性条件下でミセルが崩壊して放出を誘発するための、疎水性末端にアセタール基を有するDOX担持ミセルを作製しました12 。これらのpH応答性ナノキャリアは、腫瘍部位のより酸性な部位で化学療法剤を制御して放出するべく設計されています。
MalmströmとNyströmらは代替のアプローチとして、それにより多官能性樹状開始剤からのオリゴ(エチレングリコール)メタクリラートモノマーの制御ラジカル重合により自発的に形成するコア‐シェルナノ粒子を報告しています13 。フッ素化コモノマーを組み込むことで、 DOXをはじめとする疎水性薬物を受動的に担持することができ、かつ19 F-MRIによるイメージングが可能な二官能性セラノスティックナノ粒子が得られています。これを用いると、薬物放出動態が制御され、樹状疎水性セグメントを変化させることで放出プロファイルを調整できる可能性を示しました。
PAMAMおよびポリ(プロピレンイミン)(PPI)デンドリマーは、遺伝子治療における非ウイルス遺伝子送達ベクターの有望な候補として出現しました。これらの高分子はポリカチオン性であるため、生理的pHで核酸に結合することができます14 。しかし、PAMAMおよびPPIデンドリマーは生理的溶液中で非常に安定であり、これらのキャリアは分解されず、体外への安全なクリアランスを妨げます5 。Malkochらは、bis-MPAデンドリマーの周縁部をβ-アラニン基でを修飾することで、生物学的に適切な条件下で迅速に分解できるポリエステル内部をもった、PAMAM型と類似のポリカチオン性高分子構造が設計できることを最近報告しました15 。このアミン修飾ポリエステルデンドリマーの神経毒性は、中性のbis‐MPA型構造体よりも高かったものの、市販のPAMAMデンドリマーよりも低くなりました。 さらに、これらの分子を非ウイルスベクターとするsiRNA送達が評価されています16 。12~48個のアミノ末端基を有するG2~G4デンドリマーは、siRNA複合体化およびその後のRNaseによる分解からのsiRNAの保護が可能であり、標的とするタンパク質の発現を20%低下させることができました。
共有結合によるデリバリー
薬剤活性を示す多くの化合物は疎水性であることから、生体適合性高分子スキャフォールドとの共有結合は、水溶解度の向上、目的の細胞/組織への能動的または受動的ターゲティングの導入、および放出特性の調整にとって魅力のある手法です。bis‐MPAに基づく樹状フレームワークは、薬剤分子の共有結合による担持に向けた汎用性に優れる構造です。これは、効率的な化学的手法により簡便に操作される様々な反応性基をもつものが市販されている、多数の薬剤を担持ないしは付加的なターゲティング/イメージング部分のための複数の周縁基を有している、および二つの機能をもつデリバリーシステムのための直交した反応性基を含むことができる、などの利点をもつためです。 多様な薬物を担持する方法が適用できることから、pHまたは細胞の還元電位のような外部刺激によって活性薬物の放出をさらに制御するのに適した結合を選択することもできます。
Fréchetらは、bis-MPA構造で可能な二重機能性を利用して、一方の面にpH感受性結合を、他方に複数のPEG鎖を有する「ボウタイ」型二官能性デンドリマーを構築し、水溶性および最適化された血液循環時間を両立させました17 。このデンドリマーを用いたDDSでは、結腸直腸動物モデルにおいて、フリーの薬剤よりも、特異的腫瘍取り込み能が9倍増加しました。Sharpless、Hawkerらは、似たような二重機能性デンドリマーの設計手法を用いて、認識/ターゲティングに応じた正確な数のマンノース単位を含み、さらに蛍光検出用のクマリンを含むデンドリマーを生成しました(図2)18 。このデンドリマーは、血球凝集の抑制効果を240倍改善することが示されています。二官能性「ボウタイ」型デンドリマーを得るにあたって、機能性デンドロンをカップリングさせることは非常に有用ですが、それは各モジュールをそれぞれ合成するために構造の絶対的な制御が可能なためです。結合化学作用を最適化することで達成されるバッチごとの高い一貫性により、正確な数の各機能成分をキャリアに含めることができます。これは、統計的手法により既存のキャリアに多機能単位を追加する方法(この場合、混合物が常に未定義となり、法規改訂の通過や臨床応用が難しくなります)とはまったく対照的です。19

図2二重機能性二重目的識別/検出デンドリマーの構造を示す化学合成図。許可を得て文献18より転載。copyright 2005 Royal Society of Chemistry
bis-MPAに基づく二重機能性デンドロンには、薬剤の結合、診断プローブ、または生物活性分子を実現してこれらの特性を目的に合わせたり改善したりできる大きな可能性があります。これらの二重機能性により、コアにある目的分子と直交末端基との簡便な共有結合が可能になり、溶解性やその他の多くの必要な特性を目的に合わせるための、広範で正確な数の化学修飾が得られます。ValliantとAdronovらは、第 4~7世代のbis-MPAデンドロンに、 99mTcと安定に錯形成できる三座配位子を導入し、放射性標識プローブを作製しました20 。このデンドリマーは、ラットの体内から15分以内に排出され、どの臓器にも保持されないことが、 in vivo SPECTイメージングから明らかになりました。著者らは、この研究に基づいて、表面官能基化によるターゲティングの研究に進めるであろうことを述べています。Ellis-Daviesらは、同様の戦略を用いて、2光子光神経生物学的な化学プローブに水溶性を付与し、望ましくないGABA受容体拮抗作用を回避しました21 。著者らは、第4世代および第5世代のアルキンを中心部に持つデンドロンを、CuAAC「クリック」ケミストリーによって一連のプローブに結合させ、天然状態のGABAレセプターにおけるGABAのシグナル伝達の研究を初めて可能にしました。樹状構造にイメージングプローブを修飾した他の例としては、bis-MPAデンドロンの周縁に蛍光色素を修飾した、イメージング能力を有する二官能性治療薬が検討されています22 。第1世代から第3世代のデンドロン表面にCy5色素を正確な数で複数導入したところ、第3世代のデンドロンは低世代のデンドロンおよび対応する単官能構造よりも蛍光シグナルを増幅することを示しました。化学選択的な中心構造が分子内に保持され、活性を損なうことなく抗体の標識が可能となりました。
市販のbis-MPAデンドロンの機能付与方法
さまざまなポリエステルデンドリマーやデンドロンが市販され、特定のドラッグデリバリーターゲットに合わせた新しい高分子の開発が可能になっています。これらは、いくつかの効率的で簡便な化学修飾を利用することにより製造できます。直交方向へ操作して保護的化学作用の使用が避けられれば理想的です。ここ20年間の「クリックケミストリー」の原理に基づいた結合化学の開発23 を表1に示します。 これらの方法によって、PEG10,24 、糖ユニット18 、薬物分子17 、ビオチン25 、および蛍光プローブ22などの多様な生物学的に活性な基質が、bis-MPA構造へと結合導入されています。
樹状官能基 | 反応対象 | 結合反応(文献番号) |
---|---|---|
アリル | チオール | チオール-エン24,26,27 |
アルキン | チオール、 アジド | チオール-yne26 CuAAC18 |
チオール | アルケン/アルキン | チオール-エン チオール-yne |
アジド | アルキン | CuAAC |
1級アミン (NHBocの保護) | NHS-エステル カルボキシル基 | NHSアミド化15 EDC/DDCアミド化 |
カルボキシル基 | アミン ヒドロキシル基 | EDC/DDCアミド化 Fluoride-Promoted Esterification25,28 |
ヒドロキシル基 | カルボキシル基 | Fluoride-Promoted |
参考文献
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