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Merck

遠心分離の基礎

自然重力と遠心分離

地球の重力でも、時間をかければ多くの種類の粒子を十分に分離できます。抗凝固処理した全血のチューブを立てておけば、最終的には血漿、赤血球、および白血球の分画に分離します。しかし、長時間を要するため、ほとんどの用途ではこの分離法を採用していません。

実用上は、ほとんどの粒子を分離するために遠心力が必要です。また、長時間貯蔵すると生体化合物の分解が起こるおそれがあるため、より迅速な分離技術が必要になります。

遠心分離は最も基本的な実験アプリケーションの一つで、臨床家や研究者によって幅広く使用されています。遠心分離の基本原理は、沈降作用による粒子の分離です。遠心分離による沈降は新しい技術ではありませんが、目的の精製粒子が得られることから最先端のゲノム研究やプロテオミクス研究にとって不可欠です。

粒子の懸濁液を重力法によって分離する速度は、主に粒子のサイズと密度に依存します。一般に、密度が高くサイズが大きい粒子ほど沈降が速く進み、ある時点から、より密度が低く小さい分子から分離されていきます。細胞などの粒子がこのように沈降することは、重力場における球体の動きを説明したストークスの法則によって説明できます。1 沈降速度は、5つのパラメータを含む方程式によって計算されます(図1)。

ストークスの式

図1.ストークスの式

粒子の挙動と分離

粒子の重要な5つの挙動は、ストークスの式によって以下のように説明できます:

  1. 粒子の沈降速度は、粒子のサイズに比例します。
  2. 沈降速度は、粒子と溶媒の密度の差に比例します。
  3. 粒子の密度と溶媒の密度が等しければ、沈降速度はゼロです。
  4. 溶媒の密度が高いほど、沈降速度は遅くなります。
  5. 重力が大きいほど、沈降速度は速くなります。

相対遠心力

ほとんどの粒子は非常に小さいため、重力では粒子のランダムな分子力を上回って分離作用を引き起こすには不十分です。遠心分離とは、軸を中心に回転することで生じる遠心力で分離する手法のことで、重力場の強度を高めるための方法です。懸濁液中の粒子は、半径方向の遠心力を受けて回転軸から遠ざかります。2

回転ローターによって生まれる半径方向の遠心力は、地球の重力との相対により表されるため、相対遠心力(RCF)あるいは「Gの力」として知られています。粒子に作用するGの力は、回転速度(1分当たりの回転数:rpm)に対して指数関数的です。

回転速度を2倍にすると、遠心力は4倍になります。遠心力は、回転軸からの距離によっても高められます。適切な遠心分離を選択するにあたり、この2つのパラメータは非常に重要です。表1に、相対遠心力と各種サンプルの沈殿性について示します。3

Table 1遠心力とサンプルの沈殿性

* 実施可能ですが、通常はこの目的には使用されません。

RCFは、rpm単位の回転速度と、回転軸から粒子までの距離に依存します。回転速度(Q)がrpm単位で与えられ、距離(r)がセンチメートル単位の場合、RCFは図2の式によって算出されます。

RCFの式

図2.相対遠心力(RCF)の式

低速遠心ノモグラム

ノモグラムを使用して、必要なRCFに要する遠心ローターの速度を求めることもできます(図3)。この簡易推定法は、低速遠心分離に有効です。しかし、速度が10,000 rpmを超える場合はRCF計算法のほうが正確です。

ノモグラムによる遠心速度rpmの推定

図3.ノモグラムによる遠心速度rpmの推定

ノモグラムの使用方法

  1. 遠心ローターの中心から、試験管キャリアの先端までの半径(cm)を測定します。
  2. サンプルの沈殿に必要な相対遠心力を確認します。
  3. 半径の値と相対遠心力(g)の値を結ぶ直線を引けば、右側の縦線からローターの遠心速度(rpm)が読み取れます。

密度勾配遠心法

密度勾配遠心法は、粒子のサイズ、形状、および密度に基づいて分離する技術です。密度勾配は通常、遠沈管内で密度が増していくように密度媒体の層を作ることによって形成されます。密度勾配の上部にサンプルを重層して遠心すると、粒子はそれぞれ異なる速度で勾配の中を移動します。勾配中の粒子は層状または帯状に認められます。密度が高くサイズが大きい粒子ほど長い距離を移動します。

密度勾配用媒体

密度勾配用媒体として、多くの異なる化合物が研究されてきました。1950年代に開発された初期の密度勾配遠心分離技術の一つは、細胞小器官の精製のためにショ糖緩衝液を使用しました。ショ糖は、ホモジェナイズした哺乳動物組織を分離するための密度媒体として、すぐに第一選択肢として挙げられるようになりました。その後、異なる密度のDNAを分離するために塩化セシウム勾配法が使用されました。MeselsonとStahlは1958年に、塩化セシウム密度勾配遠心法を使用して、DNAの半保存的複製モデルを裏付けるエレガントな実験を行っています。DuPontにより初めて製造されたコロイドシリカ懸濁液は、LUDOX®の製品名で販売されました。4

1977年には、Percoll®という名称の、ポリビニルピロリドン(PVP)でコーティングした安定化シリカコロイドが、細胞および細胞内顆粒の分離に利用できるようになりました。Boyumは1968年に、多糖類と放射線造影剤の混合物を使用して、循環血液や骨髄から単核球を分離する方法を述べています。これは、1970年代に最初の非イオン性ヨウ素化密度勾配媒体メトリザミドが開発されるきっかけになりました。5 現在では、さまざまなヨウ素化密度勾配媒体が市販されています。

参考文献

1.
Sharpe PT. 2012. Methods of Cell Separation. Elsevier Science.
2.
Graham J. 2001. Biological Centrifugation. 1. Garland Science.
3.
Rickwood D, Ford T, Steensgaard J. 1994. Centrifugation: Essential Data. Wiley.
4.
Rickwood D. 1984. Centrifugation: A Practical Approach. 2. Oxford University Press.
5.
Rickwood D. 1983. Iodinated Density Gradient Media, A Practical Approach. Oxford University Press.
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