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ホームDNA・RNAの精製オリゴヌクレオチドの取り扱い

オリゴヌクレオチドの取り扱い

DNAオリゴヌクレオチドは比較的安定な分子です(表1)。しかし、確実にトラブルのない実験を行い、有効期間を最長にするためには、取り扱いおよび保管技術について知ることが大切です。

表1.未修飾の一本鎖DNAオリゴヌクレオチドを適切に保管した場合のおおよその有効期間。ここに示した値は推定値であり、保証されているものではありません。

再懸濁、保管および作業に関するポイント

未修飾DNA

再懸濁:  溶液状態での納品が求められない限り、チオール修飾オリゴヌクレオチド以外のすべての一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは乾燥状態で出荷され、再懸濁によりすぐに使用できるようになっています(チオール修飾オリゴヌクレオチドの活性化については、こちらの還元プロトコルに従ってください)。TE(10mM Tris、pH7.5~8.0、1mM EDTA)やTris(10mM Tris-HCl、pH8.0)などの緩衝液の使用が望ましく、TEが最適です。TEが最終用途に適さない場合は、滅菌nuclease-free waterを推奨します。

保管:表1に示すように、-20℃で保管すると有効期間が最も長くなります。研究グレードの水は弱酸性であることが多く、DNAを徐々に分解するため、TEバッファーが最も適しています。また、乾燥オリゴは完全に乾燥しているわけではありません。いくらかの水分が残っているため、緩やかに分解が進みます。ただし、乾燥状態、水中あるいは緩衝液中のいずれで保管した場合も、少なくとも2年間は、安定性に大きな差が生じる可能性は低いといえます。

未修飾RNA

再懸濁:一本鎖RNAオリゴヌクレオチドは、上記の未修飾DNAと同様に、再懸濁してください。

保管:RNAは、その化学構造のためにDNAよりはるかに不安定です。RNAは自己触媒反応を起こしやすく(図1)、RNaseによる分解も受けやすくなっています。RNaseは、はがれ落ちた皮膚細胞やどこにでもいるような微生物などの発生源に存在するため、実験室に存在します。

RNAの自己触媒反応

図1.RNAの自己触媒反応。RNAの2’-ヒドロキシル基によって自己触媒的分解が生じ、続いて、適した条件下では、有用なオリゴヌクレオチドの量が減少する。

短期保管の場合、一本鎖RNAオリゴヌクレオチドはTEバッファー中で-80℃で保存してください。長期保管の場合は、-80℃でエタノール沈殿物として保管するのが最適です。RNaseへのばく露を最小限に抑える予防策を講じることで、有効期間が長くなります。

RNAを扱う作業:RNaseは多数のジスルフィド結合を含むことが多く、きわめて安定しています。RNaseは、オートクレーブ滅菌などの一般的な除染方法に抵抗性を示します。次のような予防策が、RNAオリゴヌクレオチドのRNaseばく露を最小限に抑えるために有用です。

  • 作業空間/実験室内のすべての物がRNaseで汚染されていると想定する
  • 実験室の隔離された一部分を、RNAのみを扱う作業専用として使用する
  • RNA分離エリアは、RNaseを失活させる薬剤を用いて定期的に清掃する
  • RNaseフリーとして認証された化学薬品、試薬、水を使用する
  • RNAのみを扱う作業用の器具(マイクロピペットなど)を使用する
  • 常に手袋を着用し、その他の表面に触れた後は交換する

修飾オリゴヌクレオチド

再懸濁:修飾オリゴヌクレオチドは、DNAまたはRNAのいずれも、TEバッファー中で再懸濁してください。特にpHは蛍光の発光強度に大きな影響を及ぼす可能性があります。

保管:修飾オリゴヌクレオチドの安定性プロファイルは、修飾がないDNAおよびRNAオリゴヌクレオチドと同様になっています。したがって、DNAおよびRNAに関する上記推奨事項に沿って保管してください。蛍光標識オリゴヌクレオチドは、蛍光の退色を防ぐために暗所で保管してください。

蛍光修飾を扱う作業:取り扱い時の蛍光退色を防ぐために、褐色チューブに入れて保管してください。透明なチューブに移す場合は、アルミホイルで包んでください。

二本鎖オリゴヌクレオチド

メルクの研究者たちは、siRNA二本鎖を-20℃の乾燥状態で保管すれば、少なくとも3年間は安定であることを見出しました。DNA二本鎖も同程度、場合によってはさらに長期間安定と考えられます(ここに示した値は、推定値であり、保証されているものではありません。実験により決定された、保証される有効期限をお知りになりたい場合は、安定性試験[下記参照]についてお問い合わせください)。

Single-Use Aliquots

凍結と解凍のサイクルを繰り返すと、氷の結晶形成に起因するせん断によって、ゲノムDNAが分解されるという考えがありますが1、メルクの研究者たちは、オリゴヌクレオチドはそのようなサイクルの悪影響を受けないことを見出しました。しかし、現状は、オリゴヌクレオチドを1回分ごとに小分けした後に、-20℃で凍結保存することが最適です。これによって、クロスコンタミネーションや液こぼれなどのトラブルによる無駄を防ぐことができます。例えば、1つのチューブに入ったオリゴヌクレオチドを床にこぼしてしまった場合、再注文しなければなりません。しかし、1回分のオリゴヌクレオチドのみを床にこぼしただけであれば、もう1つの分注チューブを解凍するだけで済みます。

溶液の調製

オリゴヌクレオチドの量は、チューブのラベルとテクニカルデータシートの両方に記載されており、光学密度(OD)、マイクログラム(µg、または転じてµg/OD)、ナノモル(nmol)など、さまざまな単位で示されています。メルクの定量化法は、紫外可視分光光度計により波長260 nmでの吸光度を測定し、OD値を得るところから始まります。他の単位の値は、いずれもこのOD値から算出されます(詳細は「オリゴヌクレオチドの定量化」をご覧ください)。これらの量の単位は、ストック溶液の調製に直接使用できます。

濃度を表す単位は数多くありますが、オリゴヌクレオチドに関して最もよく用いられるのは、おそらくマイクロモーラー(µM)です。ここでは、チューブのラベルやテクニカルデータシートに表示されているnmol量を出発点とし、100 µMのストック溶液と10 µMの実験用溶液を作るために必要な詳細な計算手順と簡易計算方法の両方を例として示します。他の単位を用いた濃度計算など、より迅速に結果を得るには、OligoEvaluator™の再懸濁および希釈モジュールをご利用ください。

再懸濁のための詳細な計算手順の例

次元解析の際には、「換算上の混乱」を防ぐために、基本単位を用いることが推奨されます。nmol、µMとその他の補助的な単位の間で直接換算しようとすると、ミスが起こりやすくなります。

ステップ1:チューブのラベルやテクニカルデータシートに表示されているnmol表示の数値をmolに換算します

オリゴヌクレオチドが49.9 nmolという量で届くと仮定します。

mol = 49.9 nmol x 1 mol 109 nmol-1

mol = 4.99 x 10-8
 

ステップ2:目的とするストック溶液濃度である100 µMをモル濃度に換算します

100 µM = 100 µmol L-1

M (mol L-1) = 100 µmol L-1 x 1 mol 106 mol-1

M (mol L-1) = 1 x 10-4
 

ステップ3:目的とするストック溶液のモル濃度に換算した濃度とモル数を使い、再懸濁に必要な液量をリットルで算出します

1 x 10-4 mol L-1 = 4.99 x 10-8mol

L = 4.99 x 10-8mol / 1 x 10-4mol

L = 4.99 x 10-4
 

ステップ4:リットルをマイクロリットル(µL)に換算します

Volume = 4.99 x 10-4 L x 106 µL L-1

Volume = 4.99 µL
 

再懸濁のための簡易計算方法の例

ステップ1:チューブのラベルやテクニカルデータシートに表示されているnmol表示の数値を10倍し、再懸濁に必要な液量をマイクロリットル単位で得ます

Volume = 4.99 nmol x 10

Volume = 499 µL

この簡略計算法は、100 µMの溶液の調製にしか適用できません。

今回は、499 µLの水または緩衝液をオリゴヌクレオチドの入ったチューブに加え、ボルテックスして十分に撹拌します。

再懸濁に関する追加考察

上記の再懸濁の例では100 µMを使用しましたが、これは100 µMが実験室のストック溶液濃度として一般的であるためです。100 µMをはるかに下回る濃度のストック溶液を作ると、再懸濁に必要な液量が、チューブの容量である2 mLをすぐに超えてしまいます。例えば、この49.9 nmolのオリゴヌクレオチドで20 µMのストック溶液を調製するには、水または緩衝液を2.49 mL追加しなければならないことになります。

同様に、100 µMより高濃度のストック溶液を調製しようとした場合も、問題が生じることがあります。例えば、このオリゴヌクレオチドで1,000 µMのストック溶液を調製するには、水または緩衝液49.9 µLが必要です。これだけの少量を2 mLチューブから正確にピペットで採ることは困難な場合があります。

100 µMのストック溶液を作る際、再懸濁に必要な液量はテクニカルデータシートに記載されているため、計算やオンラインツールは実際には不要です。

実験用溶液のための計算の例

この例では、最終濃度10 µMの実験用溶液を、PCRに標準的な液量である20 µLで調製すると想定します。

ステップ1:濃度と体積の積が一定であることを示す以下の関係式を用います

C1V1 = C2V2

100 µM x V1 = 10 µM x 20 µL

V1 = 2 µL

今回の例では、ストック溶液2 µLを反応用チューブに入れ、その他の成分とともに、水または緩衝液を加え、最終液量が20 µLになるようにします。

量の確認

OD値が正確であるように細心の注意を払っています。しかし、お客様は使用するオリゴヌクレオチドの量を確認したいと考えるかもしれません。その場合、紫外可視分光光度計があれば、簡単に測定できます。

以下の手順に従ってください。

  1. オリゴヌクレオチドを400 µLの水または緩衝液に再懸濁します
  2. 12µLを988 µLの滅菌ヌクレアーゼフリー水に希釈します
  3. 1 mLのサンプルをキュベットに入れ、A260を測定します
  4. OD値が線形範囲(約0.1~1OD)に収まることを確認します
  5. サンプル量のOD値に希釈係数をかけます
    Total OD = OD of 1 mL sample X 400/12
  6. 合計OD値にµg/OD値(テクニカルデータシートに記載)をかけてµgを得ます

結論

取り扱いが不十分であっても、納品後すぐに使用すれば、大半の一本鎖DNAオリゴヌクレオチドは安定で、十分に機能します。その他のご質問がある場合はテクニカルサービス(customjp.ts@merckgroup.com)までお問い合わせください。

参考文献

1.
Roder B, Fruhwirth K, Vogl C, Wagner M, Rossmanith P. 2010. Impact of Long-Term Storage on Stability of Standard DNA for Nucleic Acid-Based Methods. Journal of Clinical Microbiology. 48(11):4260-4262. https://doi.org/10.1128/jcm.01230-10
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