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ホーム固相マイクロ抽出(SPME)血漿試料中におけるWarfarin™(ワルファリン)のキラル・アキラルLC-MS分析

血漿試料中におけるWarfarin™(ワルファリン)のキラル・アキラルLC-MS分析

臨床ラボは、感度、特異性、スループット、および試料当たりのコスト低減の可能性という点でLC-MSを使用しています。本研究の目的は、キラルおよびアキラル(逆相)クロマトグラフィーを利用した血漿試料中におけるWarfarinのLC-MS分析と、内因性リン脂質を除去する効果的な分析前処理法を確立することでした。

Warfarin への臨床的関心

Coumadin®(クマディン)、Jantoven®(ヤントベン)などの商標で販売されているWarfarinは、新たな医薬品が発売されているにもかかわらず、血栓症と血栓塞栓症の治療と予防に今でも広く処方されている経口抗凝血薬です1。Warfarin の薬理効果は酵素ビタミンKエポキシドレダクターゼを阻害する能力に由来し、これにより血液凝固過程に要求されるビタミンKの血中濃度を下げます2

米国では、毎年新たに推定200万枚のWarfarin 処方箋が発行されています2。需要量は多いにもかかわらず、Warfarin には比較的狭い治療指数、臨床的に重要な他の医薬品との相互作用、副作用、Warfarin 代謝での遺伝的差異、治療域外への血中濃度の頻繁な移動、出血事例、治療濃度に達するまでの時間のばらつきといったいくつかのマイナス面もあります3。これらのマイナス面と、Warfarin が医薬品関連での緊急治療室搬送件数の2位を占めている事実から、臨床ラボでよく分析される化合物になっています4

Warfarin は、(R)体と(S)体のエナンチオマーの等量混合物からなるキラル化合物です(図1)。(S)-Warfarinは(R)-Warfarinよりはるかに強力で大きな薬理活性を示します。2つのエナンチオマーは、いくつかのチトクロームP450(CYP)酵素が関与する異なる経路で代謝されます。活性生化学研究の目的は、患者のCYP(特にCYP2C9)遺伝子型に基づくWarfarin 代謝を予測することです。3

図1.Warfarin <sup>&trade;</sup>エナンチオマーの構造

図1.Warfarin エナンチオマーの構造

Warfarin とWarfarin エナンチオマーにおけるLC-MS分析の改良

血中総Warfarin のモニタリングは、心臓発作、手術、および血液凝固をコントロールする必要があるその他の医療処置や状態の後で良好な患者の転帰を保証するのに役立ちます。投与後の血中Warfarinエナンチオマー濃度は、患者のWarfarin代謝プロファイルを示す指標になり、長期にわたってWarfarin治療を受けている患者の治療方法を医師がさらに多くの情報に基づいて決定するのに役立つ可能性があるため、これを測定することは臨床研究での関心事です。

Warfarin の治療薬物モニタリングの臨床的な意味と重要性から、血清中のWarfarin とそのエナンチオマーを検出して定量するUHPLC-MSのような信頼性と感度の高い分析方法が必要になります。本研究では、生体試料分析と臨床分析の感度、スループット、および信頼性を最大化するように設計された特定の分析用消耗品(分析前処理、HPLC、UHPLCカラムと溶媒、および認証標準物質)の使用法を報告します。

図2.Astec™ CHIROBIOTIC® VによるWarfarin <sup>&trade;</sup>エナンチオマーの迅速HPLC分離

図2.Astec CHIROBIOTIC® VによるWarfarinエナンチオマーの迅速HPLC分離

図3.Warfarin<sup>&trade;</sup>エナンチオマーで得た検量線

図3.Warfarinエナンチオマーで得た検量線

実験

標準溶液

標準溶液は、標準原液から(3:1)1%ぎ酸アセトニトリル:水中の20、50、100、200、300、および500 ng/mLの濃度で調製しました。Cerilliant® の認証標準物質グレードのWarfarinを使用して定量の信頼性を確保しました。

血漿試料の調製と抽出

K2EDTAで安定化したラット血漿をLampire Biological Laboratories(ペンシルベニア州パイパーズビル)から入手しました。標準原液から血漿に直接添加して400ng/mLの濃度にしました。

HybridSPE-Phospholipid 96ウェル法:ウェルに100μLの添加血漿、続いて300μLのアセトニトリル(1%ぎ酸)を加えます。ボルテックスで4分間撹拌し、バキュームマニホールドにて4分間10" Hgで吸引します。ろ液を回収し、直接分析します。

標準的なタンパク質沈殿法:遠心バイアルに100μLの血漿、続いて300μLのアセトニトリル(1%ぎ酸)を加えます。

ボルテックスで4分間撹拌し、バイアルを遠心分離機にて15,000 rpmで2分間回転します。上澄み液を回収して直接分析します。

いずれの技法でも、前処理後の最終試料の被分析物質濃度は100 ng/mLに相当します。

リン脂質のモニタリング

処理した添加血漿試料の対象医薬品と代謝物を、関連するマトリックス効果とともに分析しました。リン脂質は、リゾリン脂質とグリセロリン脂質の両方の範囲(リゾホスファチジルコリンは496.3および524.3 m/z、グリセロホスホコリンは758.5、786.5、806.5、および810.5 m/z)でモニターしました。

図4.タンパク質沈殿にて前処理した血漿中のWarfarin™エナンチオマーの分析

図4.タンパク質沈殿にて前処理した血漿中のWarfarinエナンチオマーの分析

図5.HybridSPE™-Phospholipidにて前処理した血漿中のWarfarin<sup>&trade;</sup>エナンチオマーの分析

図5.HybridSPE™ -Phospholipidにて前処理した血漿中のWarfarin エナンチオマーの分析

クロマトグラフィー

Warfarin の逆相(アキラル)分離はAscentis Express Fused-Core C18カラムで行いました。臨床ラボ、生体試料分析ラボ、または法医学ラボのUHPLC/LC-MSユーザーに対するこのカラムの利点は、高い試料スループットのための高速性、高いs/n比のための高効率性、およびファウリング(汚染)や過圧を起こすことがない、生体試料に対する高い耐久性です。Ascentis™ Expressカラムが持つUHPLCと同等の速度と感度の利点は、どのようなHPLCシステムでも得ることができます。

Warfarin™エナンチオマーのキラル分離はAstec CHIROBIOTIC® Vキラル固定相(CSP)で達成されました。CHIROBIOTIC®相に組み込まれた大環状グリコペプチドキラルセレクター(この場合はバンコマイシン)の4つの特徴は、臨床ラボや生体試料分析ラボでのLC-MS操作に最適です。第1に、これは極性を持つ医薬品と代謝物に適した水系移動相と極性有機移動相で機能します。第2に、これはイオン間相互作用を有し、被分析物質のイオン化を促進する移動相条件下でキラル選択性を発揮します。実際、Astec™ CHIROBIOTIC®カラムには、ESI-MS検出に対する適合性の点で他のCSPと明確な違いがあります。第3に、高い耐久性と長いカラム寿命でシリカ表面に共有結合されています。第4に、Astec™ CHIROBIOTIC®カラムでのキラル分離は一般に迅速であるため、ラボのスループット性を促進します。

結果

Warfarin標準溶液のキラルLC-MS分析を図2に示します。図3の検量線は、いずれのエナンチオマーでも20~500 ng/mLの範囲で優れた直線性を示しました。図4図5は、それぞれタンパク沈殿法とHybridSPE-Phospholipid抽出法を比較したものです。標準的なタンパク質沈殿法(図4)で処理した試料は、いずれのエナンチオマーでも検出感度の低下を示しました。これはリン脂質によるマトリックス効果のオーバーラップによるものではなく、試料マトリックスが質量分析計のイオン源を汚染したことによるものでした。HybridSPE™-Phospholipid法(図5)ではマトリックスによる汚染は見られませんでした。この違いは表1図6の回収率データに反映され、いずれもHybridSPE™-Phospholipid法を使用したときのほうが回収率が高く、一貫性があります。(内因性リン脂質のマトリックス効果と独自のHybridSPE™-Phospholipid法の原理に関する総合的な説明は参考文献5でご覧いただけます。)

表1.HybridSPE™-Phospholipidによってタンパク質沈殿より向上したWarfarin™の回収率
図6.HybridSPE™-Phospholipid抽出後のWarfarin™におけるLC-MS測定結果

図6.HybridSPE™-Phospholipid抽出後のWarfarin™におけるLC-MS測定結果

図7.タンパク質沈殿による分析前処理後の血漿中におけるWarfarin™のアキラルHPLC分析

図7.タンパク質沈殿による分析前処理後の血漿中におけるWarfarin™のアキラルHPLC分析

アキラル(逆相)HPLC法について、標準的なタンパク質沈殿(赤色のトレース)またはHybridSPE-Phospholipid前処理法(青色のトレース)を使用してモニターしたWarfarin と全リン脂質内容物のクロマトグラムを図7に示します。対象である被分析物質とマトリックスの間の強度の違いとともに大きなリン脂質ピークを持つ、Warfarin の共溶出に注目してください。大量に存在するマトリックスとのオーバーラップによって、対象である被分析物質の感度が大きく減少する恐れがあります。しかし、HybridSPE™-Phospholipid前処理法を使用すれば、Warfarin保持時間枠内(さらに言えば操作中のどこでも)マトリックス成分が共溶出することはありません。

結論

LC-MSは、臨床、法医学、および生体成分分析研究者がWarfarinとその他多くの外因性および内因性化合物をモニターする重要なツールです。これらラボの高いスループットとLC-MS/MSシステムの堅牢な操作性を維持しながら、患者の試料から収集した情報の量と質を最大化する分析ツールを備えることが重要です。マトリックス、特に内因性リン脂質による干渉を低減すれば、LC-MSの感度と回収率を大きく改善できます。本研究ではHybridSPE™-Phospholipid法を使用し、racemic Warfarinと個々のエナンチオマーを優れた回収率で測定できることを実証しました。迅速かつ効率的なキラルとアキラルの分離は、それぞれAstec CHIROBIOTIC®とAscentis™ ExpressのHPLCカラムで行いました。あらゆるLC-MSおよびUHPLC-MS分析と同様に、溶媒と添加物の純度は感度と堅牢性に影響を及ぼすため、高グレードの溶媒を使用することを推奨します6。最後に、患者の真の濃度を得るのに極めて重要な信頼性の高い定量は、Cerilliant®が提供している認証標準物質を使用することによって実現されます。

参考文献

1.
IMS Health, Top-Line Market Data. http://www.imshealth.com (accessed Nov. 13, 2012). IHTMDh(N12.
2.
Gage BF, Lesko LJ. 2008. Pharmacogenetics of warfarin: regulatory, scientific, and clinical issues. J Thromb Thrombolysis. 25(1):45-51. https://doi.org/10.1007/s11239-007-0104-y
3.
Martin J, Somogyi A. 2012. Pharmacogenomics and Warfarin Therapy.161-173. https://doi.org/10.1016/b978-0-12-385467-4.00008-7
4.
Budnitz DS, Pollock DA, Weidenbach KN, Mendelsohn AB, Schroeder TJ, Annest JL. 2006. National Surveillance of Emergency Department Visits for Outpatient Adverse Drug Events. JAMA. 296(15):1858. https://doi.org/10.1001/jama.296.15.1858
5.
Aurand, C. Understanding, Visualizing, and Reducing the Impact of Phospholipid-Induced Ion Suppression in LC-MS. Supelco Reporter, 2012, 30.2, 10-12. ACUVaRtIoPISiLSR231.
6.
Lu, X.; Aurand, C.; and Bell, D. S. Topics in LC-MS, Part 2. Impact of Mobile Phase Additives on LC-MS Sensitivity, Demonstrated using Spice Cannabinoids as Test Compounds. Supelco Reporter, 2012, 30.3, 8-10. LXACaBDSTiLP2IoMPAoLSDuSCaTCSR238.
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