3Dプリンティングにおいて炭素繊維はどのように使用されているのでしょう?
積層造形法の一種である3Dプリンティングは、高度にカスタマイズ可能な形状の部品を短時間で作製でき、最も典型的には1層ずつ製造を行う方法が用いられています。3Dプリンティングは、低コストかつ高い柔軟性を有する製造を小規模から中規模で実現できる可能性があるため、産学界の双方で急速に関心が高まっています1,2。熱可塑性材料は溶解してから意図する形状に再成形できることから、3Dプリンティングにおいて現在最も一般的に使用されている材料の1つです。これら材料は試作品の作製に広く使用されているものの、工業用途で必要な機能性部品や荷重がかかる部品に使用するためには、熱的、化学的、機械的安定性が概して不足しています2。
最近、3Dプリンティングに繊維強化プラスチック(FRP:fiber-reinforced plastic)を使用して、作製する部品の機械的強度や弾性を向上させる手法に関心が集まっています3-4。これら複合材料は、非常に軽量でありながら、多くの金属に匹敵する強度を有しています。特に、プラスチック樹脂への炭素繊維の添加は、3Dプリンティングで作製する部品の機械的性質を向上させる手法として広く使用されるようになっています。
炭素繊維強化プラスチックの利点4:
- 高い引張強度
- 耐薬品性
- 剛性
- 温度許容性
- 低い熱膨張率
炭素繊維強化プラスチックの用途の拡大
多様な業界の顧客に向けて、炭素繊維強化複合材料を用いたパーツ作製用の3Dプリンターと材料が、多くの企業から既に市販されています5。現在、炭素繊維強化複合材料を使用した3Dプリンティング部品は、レース用車両、ドローン、高性能スポーツ用品や、製品性能強化のために軽量で頑丈な材料を必要とする多数の用途における、設計および製造に使用されています5,6。
炭素繊維強化プラスチックの3Dプリンティング法:FDM vs. SLS
熱溶解積層法(FDM:fused deposition modeling)とレーザー焼結法(SLS:selective laser sintering)は、炭素繊維強化材料を原料とした機能性部品を作製するための3Dプリンティング法として広く使用されています。FDMは、加熱したフィラメント材料を1層ずつ押し出すことでプラスチック部品を作製する方法です(図1a)7。一方、SLSは粉末状素材をレーザー照射で焼結させて連続的に層を形成して部品を作製する方法です(図1b)8。加工条件と最終部品のデザイン要件に応じて、加熱などの後処理が必要になる場合があります7。
図1a)FDM法とb)SLS法の概略
3Dプリンティング用炭素繊維強化複合材料の調製に必要な材料
最終製品のデザイン要件や研究目的により、さまざまな種類のプラスチック樹脂および炭素繊維を選択し、3Dプリンティングに適した複合材料を作製します。
最終製品の機械的強度は、選択したプラスチック樹脂の種類や、炭素繊維の長さおよび添加量に強く依存します7,8。例えば、ABS熱可塑性プラスチックの機械的強度を改善するため、炭素繊維(150 µm / 100 µm)を補強材として使用した研究が報告されています。得られた複合材料は炭素繊維を5 wt%含有し、ヤング率と引張強度が>20%向上したことが示されています7。
カーボンナノチューブやグラフェンのようなカーボンナノ材料は、プラスチック材料の引張強度や熱安定性を向上させることができる、特有の物理的および化学的性質を持っています9。
炭酸繊維強化複合素材の調製方法
FDM法に適した複合材料を得るには、最初に炭素繊維とプラスチック樹脂ペレットをブレンダー/ミキサーで混ぜ合わせ、炭素繊維とプラスチック樹脂の混合物とします。次に、この混合物を押出機に供給し、FDM法で使用するフィラメントを作製します(図2a)7。SLS法用材料の調製では、最初に炭素繊維とプラスチック樹脂材料を有機溶媒に溶解して均一な混合物とします。次に、溶媒を除去して炭素繊維とプラスチックで構成される粉体を析出させます。この粉体をさらに圧砕・破砕して使用します(図2b)8。
図2a)FDM法、b)SLS法で用いるための材料調製の例
続きを確認するには、ログインするか、新規登録が必要です。
アカウントをお持ちではありませんか?