はじめに
消費者の安全を確保するため、食物連鎖に取り込まれる化学物質は厳しい規制基準に適合していなければなりません。詳細な規定は、一般的にその化学物質が使用されている国や地域によって異なります。要件の多くは似かよっていますが、ある製品が規制を満たしているかどうかは、たいてい、各製品の製造方法などの具体的な詳細や、汚染物質の残留量に関する規定によって左右されます。これに対する1つの例外がコーシャ食品であり、製品がどこで製造されていても、また、最終用途がどのようなものであっても、ルールが変わることはありません。
食品がコーシャである（ユダヤ教の戒律に従っている）と認められるためには、非常に厳しい規則に従わなければなりません。最終製品が認証を取得する必要があるだけでなく、その製品の製造工程の全体にわたって、製造や包装に関する厳しい規則に従う必要があります。最終的にコーシャ認証マークが付与されるためには、製品がどのように製造され、包装され、出荷されたかについて例外が認められる可能性は一切ありません。コーシャの食物戒律はわかりやすいものであるとも言えますが、それを現代の食品業界、特に、フレーバー製造業界に適用するのはたやすいことではありません。
コーシャ製品とは？
コーシャの基準は、レビ記と申命記という聖書に書かれたユダヤ教の戒律に由来しています。その基準の根底には、規律に従い、清浄であるとみなされた食物だけを食し、調理は常に清潔な状態で行うという神との誓約があります。
食品をコーシャ食品にするためにはラビから祝福を受けるだけでよいという誤解が広がっています。しかし、実際には、そのプロセスははるかに複雑であり、食品の製造、取り扱い、ラベリングのすべての段階において、コーシャに関する専門家による監督を受ける必要があります。
「コーシャ」はヘブライ語で「正しい」または「適正な」という意味です。コーシャ食品の分類には、肉（fleishig）、乳製品（milchig）、肉と乳製品のどちらも含まれていない食品（pareve）という3つのカテゴリーがあります。それぞれのカテゴリーには、食物の取扱方法や摂取方法についての詳細な規則が設けられています。摂取方法についての追加規則とは関係なく、製品がコーシャであると表示されていれば、ユダヤ教の食物戒律によって定められた基本的な食品基準を満たしたものであることを示しています。
戒律はさまざまであり複雑ですが、動物性食品が食用に適しているかどうかに関わる制限に関係しているものが多数あります。フレーバーとして食品に使用される化学製品にこのような戒律を適用する場合には、当該化学製品に動物性の成分や出発物質が含まれていないと断定することが重要です。これが、コーシャ認証取得化学製品の製造を一層難しくしている要因であると言えます。というのも、食品の出発物質の多くが動物由来であるからです。たとえば、グリセリン、オレイン酸、ステアリン酸はすべて、動物由来成分から製造されていることが多い出発物質です。さらに、現代の食品成分として配合されている化学製品の多くが発酵によって作られていますが、たいていは、それらの培地に牛肉エキスやペプトンなどの動物由来製品が含まれています。
コーシャ認証に関する考察
どのような食品や食品用化学製品であっても、コーシャ認証を取得するためには、権威のあるラビとの提携関係が必要です。ラビは、コーシャ製品を製造する方法についての指導者としての役目を果たし、正式なコーシャ認定書を発行することができる唯一の人物です。この認定書には、どの製品がコーシャ認証取得品であるのか、そして、製品ラベル上で確認すべきコーシャ認証マークはどのようなものであるかが示されています。食品に使用されているすべての原材料がコーシャであることを証明することに加えて、コーシャ製品と非コーシャ製品のどちらにも使用されている設備や器具には厳密な洗浄が求められます。これをくだけた表現で「コーシャライズ」ということがよくあります。つまり、そのエリアや機械類がコーシャである状態になったことを意味します。
ラビを中心としたコミュニティでは、原材料や機器、手順の承認を含めて、コーシャ認証取得の基準についての幅広いコンセンサスがあります。
ラビによる原材料の評価には、サプライヤーから提供されたコーシャ認定書の審査が含まれます。多くの場合、このような認定書には、コーシャ認証マークやシンボルなど、製品のラベル表示に関する要件が記載され、一般的に、有効期限も記載されています。認定書がすでに発行されている場合であっても、コーシャ認証の検証のために原材料と施設に対して行われる監査を受ける義務があり、その監査には、事前通知なしで実施される施設訪問も含まれます。
監査では、ラビが原材料やロット記録、受領記録、電子記録をすべて調べます。つまり、コーシャ認証を取得した企業では、社内のシステムにもう1つのレベルの品質管理が組み込まれていて、さらなる視点から方針や手順への遵守状況が監視されているということを意味します。
コーシャ認証取得製品の製造または販売を行う企業は、最新の関連情報すべてが含まれた、コーシャ認証要件に関する最新のデータベースを維持する必要があります。これには、ラベル表示に関する要件や認定書の有効期限、その他ラビの要求事項がすべて含まれます。バルク原料については、その原産地／生産地を確認するためだけでなく、輸送に使用されたタンカーもコーシャ認証を取得していることを確認するために、輸送に関する書類が必要になる場合があります。多くの場合、このようなタンカーはコーシャ専用として使用され、タンカー自体についてのコーシャ認定書を取得しています。
製造機器もコーシャ認証の要件に適合していることが確認されなければなりません。肉や乳製品を含まない（pareve）という分類のコーシャ製品専用の製造施設にある機器は、コーシャ製品の生産のみに使用されているため、通常さらなる評価を受ける義務はありません。ただし、機械類が非コーシャ食材の製造や、異なるカテゴリー（すなわち、「肉」、「乳製品」、「どちらも含まない」）のコーシャ製品の製造にも使用されているような施設では、製造サイクル間でどのようなコーシャ対応をしなければならないかをラビが決定します。この対応として必ず徹底的な清掃が必要であり、多くの場合、清掃後に煮沸消毒やその他の熱処理を用いた殺菌手順を実施することも必要になります。液体製品用の機器については、通常、88～100℃（190～212℉）の範囲で熱処理が行われますが、製品の処理時間は状況によって変わります。これらの要素の一つ一つが評価の成功に大きく関わっていることから、全過程ですべての基準が満たされていることを確認するために、ラビがその場に赴いて温度チャートやグラフを入念に調べるということがよくあります。
すべての充填装置がコーシャ製品を扱うのに適していることを確認するために、包装工程も念入りに監視されなければなりません。各ラベルにはコーシャ認証マークが表示されます。誤って非コーシャ製品にマークが表示されることが決して起こらないよう、システムによって管理されています。
コーシャが食品業界にもたらす付加的な効果
コーシャ認証プロセスにより、製造ラインの品質管理全体が強化されます。なぜなら、原材料の購入、検収、そして表示や書類の確認から、機器の状態、充填、包装、最終製品のラベリングを含めた製造工程そのものまで、すべての管理ポイントでの追加認証が要求されるからです。このようにコーシャ認証においては特別なレベルの管理が行われるため、そうでなければ顕在化しなかったかもしれない原材料に関する情報が明らかになり、品質システム全体が強化され、購入者にとってのサプライチェーンのセキュリティがもう一段階追加されることにつながります。
コーシャ認証を取得した化学製品は、コーシャ専用ではありません。コーシャ以外の用途にも自由に使用することができます。コーシャ認証プロセスに含まれるさらなる厳格な審査のおかげで、製品の全体的な品質が向上し、品質システム全体にわたる監視プロセスが強化される可能性があります。製品にコーシャ認証マークが付いていれば、顧客は、自分が買おうとしている製品が非コーシャ製品よりも厳格な審査を受けた物であるという確信を持つことができます。コーシャ認証プロセスではさらなるレベルの認証や検証が行われているということは、最終的に、エンドユーザーにとっての付加価値となります。
コーシャに関する私たちの経験と提供可能なサービス
私たちはコーシャの規定を明確に理解しています。それは、コーシャの製造や包装に関する規則を確実に遵守するために締結されたRabbi Gershon Segal氏との業務提携による緊密な関係を通じて促進されています。コーシャ認証の複雑な規定を明確にしたいお客様は、Sigma-Aldrichの経験を活用することで、最も厳しいコーシャ基準への適合を確実にするとともに、お客様の製品がコーシャ認証を取得していない類似製品よりも優れた品質であることを確実にすることができるでしょう。
私たちは、コーシャ食材製造業界で世界的に認められたリーダーとして、この分野における25年を超える経験とラビとの強固な提携関係によって支えられた1,200を超えるコーシャ認証取得化学製品を提供しています。
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