コンテンツへスキップ
Merck

金化合物

金(Au)は、最も展性・延性の高い軟質金属として知られる化学元素であり、多くの場合に強度を高めるために合金にされています。金は、熱と電気の優れた伝導体であり、空気、硝酸、塩酸、硫酸などをはじめその他多くの試薬に影響されません。金の融点は1063°C、沸点は2970°Cです。

金化合物には、さまざまな産業での多種多様な用途があります。化学産業では、その独自の特性を生かして有機反応の触媒として使用されます。エレクトロニクスにおける金化合物は、その卓越した伝導性と耐腐食性のため、高品質コネクタや回路基板で使用されています。医療分野では、がん療法や診断を含めた医療機器や治療に利用されています。さらに金ナノ粒子は、高い表面積と独自の電子特性を持つため、化学合成、環境復旧、燃料電池技術においてその触媒性能を生かして利用されています。

詳細はこちら



触媒としての金

1980年代以前、金は限られた触媒活性しか持たないと考えられていました。しかし、F. Dean TosteやAlois Fürstnerなどの先駆者たちによる研究の進歩により、金は、遷移金属触媒において重要な役割を果たすものとなりました。金触媒反応(π酸触媒)は、通常、ホスフィン配位金(I)錯体に依存しており、最近になって、C-C結合を形成し、穏やかな条件下でシクロプロパン化、エンイン異性化、Rautenstrauch転位、エン反応、環拡大などさまざまな反応を実行できる強力な触媒 として浮上してきています。この触媒系では通常、共触媒としての銀塩を併用するホスフィン配位金(I)錯体を使用して、活性種が生成されます。

金も、その装飾的役割を超えて、製薬プロセスにおいて著しく重要な触媒となっています。金触媒は、医薬品中間体の合成において中心的な役割を果たしており、製薬効率を高めています。

金触媒は、有機触媒と組み合わされることで特に強力な合成手段となることが確認されています。金錯体と有機触媒との相互作用では、著しく高い効率が認められており、カルボニル付加から環付加までの幅広い反応を促進します。この優れた触媒能は、反応を加速するだけでなく、優れた選択性で複雑な薬物中間体の合成を可能にします。製薬研究の進歩に伴い、金と有機触媒の両方を用いる二元機能触媒系が合成戦略を再定義し続けており、より合理的でサステナブルな創薬プロセスのための道を切り開いています。

塩化金

塩化金(III)は、金と塩素との組み合わせにより形成される化合物であり、天然には単斜晶構造を示します。水和物と無水物の2つの形で存在します。どちらの形も吸湿性で感光性の固体です。塩化金(III)はルイス酸であり、HClと反応してHAuCl4を形成します。

有機合成における触媒として機能し、医薬品の発展のために不可欠な複雑な分子構造の作製を容易にします。また、その抗菌性は、新規抗生物質の研究に寄与して、薬剤耐性感染症に対処します。

さらに、塩化金(III)の熱分解により、塩化第1金、別名塩化金(I)が生成されます。正方結晶構造を持ち、水にわずかに溶解します。塩化金(I)は、アルデヒドの官能化においてアミン類とともに触媒として機能して相乗的触媒作用を発揮し、α-アルキニル化とα-アレニル化を介してアルキニルアルデヒドとアレニルアルデヒドを形成します。

塩化金三水和物は、金、塩素、水の分子が結合した結晶性化合物です。分析化学において試薬としての役割を果たし、物質の同定や定量に役立ち、さまざまな金化合物の合成においても使用されます。また、電気メッキプロセスにおいて重要な役割を果たしており、金が金属表面に堆積できるようにします。さらに、塩化金(III)三水和物は、さまざまな方法を用いたAu NPの合成のための不可欠な前駆体として使用されます。例えば、HAuCl4は、Turkevich法において20 nmの粒子を合成するために使用されます。Brust-Schiffrin法は、HAuCl4溶液を用いてAu NPのサイズと低分散度を制御するために開発されました。

金ナノ粒子

コロイドナノ粒子は、別名金ナノ粒子(AuNP)として知られており、優れた熱機械的性質、高表面積、低毒性と併せてさまざまな表面機能を発揮します。金ナノ粒子は、一般的には、クロロ金酸を還元することにより液体媒質中で生成されます。酸を溶かした後、素早く還元剤と混合されます。このプロセスにより、Au3+イオンは還元されて中性の金原子になります。生成される金原子が多くなってくると、溶液は過飽和し、その結果、ナノメートル以下のサイズの金粒子が沈殿し始めます。

球状構造を持ち、表面積対体積率が大きく、優れた生体適合性があるため、金ナノ粒子は、電気化学的センサーを用いた診断や薬物送達などの生物医学用途で広く利用されています。また、心臓病、がん、感染性病原体の診断におけるバイオマーカーの検出にも使用されます。金ナノ粒子は、ラテラルフローイムノアッセイでも一般的であり、例えば一般的な家庭での例が家庭用妊娠検査薬です。また、表面積対体積率が非常に大きいため、治療薬との結合が可能です。金ナノ粒子は、700~800 nmの光にばく露されると発熱します。この性質により、特定の腫瘍を破壊することができます。金ナノ粒子を含む腫瘍に光が当てられると、金ナノ粒子は急激に加熱して、腫瘍細胞を死滅させます。この治療は温熱療法と呼ばれます。

また金ナノ粒子は、微生物細胞とその代謝産物の検出、腫瘍細胞のバイオイメージング、その表面にある受容体の特定のために共鳴散乱暗視野顕微鏡でも使用されます。また、エンドサイトーシスの研究でも利用されます。さらには、DNAコーティングした金ナノ粒子は、遺伝子材料の確実な浸透と修飾のために植物細胞や植物胚に注入され、色素体(プラスチド)の機能性を高めます。

金ナノ粒子は、さまざまな有機変換において触媒として使用されます。固相担持Au NPは、CO酸化と不均一触媒作用のための高活性触媒です。酸化還元反応やC-C結合反応などの有機反応に使用できます。

金ナノロッド

金ナノロッド(AuNR)は、ロッド様構造を持ち、可視スペクトル中で強力な吸収帯を持つユニークな光学特性を有しています。さまざまな波長にわたり調節が簡単な金ナノロッドは、センサー、光温熱療法、イメージング装置に適した生物学的環境において広範に応用されています。サイズと形状に依存する量子効果を利用するこれらのナノ粒子は、特有の表面プラズモン共鳴の吸収、散乱、蛍光、光温熱特性を示すため、触媒、化学センシング、バイオセンシング、細胞・バイオイメージング、薬物・遺伝子送達、光温熱療法などのさまざまな用途に適しています。その蛍光標識によりフルオロフォアの発光が強化されて、薬物送達とバイオイメージングを組み合わせた用途に適したデュアルモードナノプローブ剤に変換されます。



ログインして続行

続きを確認するには、ログインするか、新規登録が必要です。

アカウントをお持ちではありませんか?