銀化合物
触媒としての銀
銀触媒は、銀錯体の形成において高い酸化力と酸化電位を有するため、広く利用されています。また、銀活性化剤としても利用されており、金などの他の触媒の電気陰性度を高めます。有機合成と無機合成の両方で、銀化合物の化学量論的な酸化電位が活用されています。均一系の銀触媒を用いた有機合成では、銀のユニークな酸化還元特性が際立っており、立体選択性・位置選択性の高い反応の触媒が実現します。銀触媒は、分子間結合と分子内結合の両方の形成を効率的に触媒します。銀触媒が使用される不均一反応系には、窒素酸化物(NOx)の還元反応や、一酸化炭素(CO)から二酸化炭素(CO2)への酸化反応などがあります。銀(I)塩は、銀触媒による求核付加反応や有機合成にも用いられています。メルクでは、有機合成に用いる遷移金属触媒として高品質銀触媒を各種取り揃えています。
酢酸銀
酢酸銀(AgC2H3O2)は、銀イオン(Ag+)が酢酸イオン(C2H3O2-)とイオン結合で配位した化合物です。有機合成で広く使用されており、穏やかな酸化剤として機能します。分析化学では、水に不溶であるため、ハロゲン化物検出用の貴重な試薬となっています。酢酸銀は、タバコフィルターでも使用されており、ニコチンイオンの不活性型への変換を触媒することによりニコチン中毒を低減します。さらに、その潜在的な抗ウイルス特性についても調べられており、ウイルス感染対策を目指す医学研究における注目の的となっています。また、高反射性・高伝導性の銀メッキ高分子フィルムの独自の作製方法においても役割を担っており、イソシアノ酢酸塩とさまざまなオレフィンとの付加環化反応を効果的に触媒します。
酢酸銀は、プリンテッド・エレクトロニクスで使用される前駆体としてもよく知られています。酢酸銀錯体由来の粒子を含まない「反応性インク」では、バルク銀の伝導率に近づくトレースが得られることが報告されています。
硝酸銀
硝酸銀(AgNO3)は、汎用性の高い化合物であり、化学業界と製薬業界の両方で重要な用途があります。溶解性が高いため、ハロゲン化物検出や他の銀化合物の合成などのさまざまな実験室反応において試薬として使用されています。触媒として機能する硝酸銀は、芳香族アルデヒド、脂肪族アルデヒド、共役アルデヒドのそれぞれに対応するカルボン酸への酸化を促進して、酸化剤としてH2O2 を利用します。さらには、ベンジルアルコールやアリルアルコールの空気酸化にも役立っており、Na2CO3の存在下で対応するアルデヒド/ケトンの形成を引き起こします。また、硝酸銀は、ベンゼン誘導体のフリーデル・クラフツアシル化においても重要な役割を果たしており、対応するケトンの合成に貢献しています。オルガノシランの加水分解酸化もサポートして、水素が生成されます。
医薬品において、硝酸銀は、その強力な抗菌性のため広く使用されています。創傷ケアにおいて、感染予防と治癒促進のための焼灼剤として外用されています。また、その抗菌作用により、新生児の結膜炎などの目の治療にも応用されています。医療機器の製造では、硝酸銀コーティングにより、微生物のコロニー形成が予防され、生体適合性が高まり、感染リスクが減ります。硝酸銀は、ナノ材料、銀複合体、銀化合物の合成のための前駆体として機能します。
銀ナノ粒子
銀ナノ粒子(Ag NP)は、小さなサイズ、大きな表面積、量子閉じ込め効果などの卓越した性質を持つため、多数の業界において非常に重要です。銀ナノ粒子の触媒特性、熱特性、光学的特性は、そのサイズと形状により顕著に左右されます。銀ナノ粒子は、その表面構造ならびに他のナノ材料と比べて大きな表面積対体積率により、抗菌活性を発揮します。Ag NPが細菌細胞と相互作用することにより、細胞壁内にAg NPが蓄積して、くぼみが形成され、細胞死が引き起こされます。小さなAg NPは、大きなものよりも効果的な抗菌活性を発揮できることがわかっています。さらに、銀のプラズモン共鳴はより明瞭で強いことから、Ag NPはバイオセンサーで使用されており、イメージングシステムに不可欠です。がんの診断や治療では有用な手段になっており、がん細胞を標的とし、光を吸収し、光温熱療法による効果的な破壊を促進できる薬物担体として機能します。興味深いことに、Ag NPは、その抗菌特性により、食品業界でも利用されています。
銀ナノワイヤ
銀ナノワイヤ(AgNW)は、銀ベースの一次元ナノ構造であり、一般的には数十から数百ナノメーターの範囲の直径を持ちます。卓越した電気的・熱的・光学的性質を発揮するため、タッチスクリーンディスプレイ、太陽電池、フィルムヒーター、医用画像、無菌服などの柔軟な伝導・光学・抗菌用途に適した材料です。さらに、アスペクト比が大きいため、太陽光発電用途では効率的な光トラッピングを可能にします。
銀ナノワイヤは、エレクトロニクスの外にも、センサー、触媒、生物医学用途で使用されており、その高い汎用性ならびにさまざまな業界にわたる革新の可能性が示されています。その独自の特性により、薬物の効率的なカプセル化と輸送が実現し、バイオアベイラビリティが高まり、副作用が抑えられます。また、バイオセンサーのプラットフォームとしても機能して、診断やモニタリングのための生体分子の迅速な高感度検出を可能にします。
酸化銀
酸化銀(Ag2O)は、黒やこげ茶色の微粉末で、他の銀化合物の合成に使用されます。電子機器、特に酸化銀電池や銀亜鉛電池では、陰極材料として使用されており、高いエネルギー密度と安定性を実現しています。製薬業界では、酸化銀は抗菌性を発揮するため、感染予防のために創傷被覆材や医療装置において重要な成分となっています。
酸化銀ナノ粒子は、可視光・近赤外光照射下で安定した光触媒として機能します。近赤外光における光触媒活性は、1.3 eV未満という狭いバンドギャップから生じています。さらに、Ag2Oナノ粒子の凝集により、広い表面積と無数の結晶境界が得られ、光生成した電子の脱出チャンスを高め、光生成したホールと他の材料との接触の可能性を高めます。その結果、生成されたAg2Oサンプルにおいて卓越した光触媒活性と安定性が得られます。
塩化銀
塩化銀(AgCl)は白い結晶化合物で、触媒、抗菌剤、写真材料、イオン性半導体材料として広く使用されています。塩化銀は、高い光感受性を持つため、重要な光触媒となっています。また、アルキンやアジ化物から1,2,3-トリアゾールを調製する際の触媒としても使用されます。さらに、銀ナノ粒子の合成のための前駆体としても使用されます。
電気化学的には、塩化銀は、その伝導度によりセンサーや電極で使用されています。医療では、その抗菌性のため、創傷被覆材や医療装置で応用されており、感染を予防しています。
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