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ポリエチレングリコール(PEG)選択ガイド:DDSおよび組織工学への応用

ポリエチレングリコールとは?

ポリエチレングリコール(PEG:Polyethylene glycol)とは、エチレンオキシドと水の縮合重合(アニオン開環重合)によって得られるポリマーです。分子量の範囲が200~数百万と広く、一般には分子量が2万程度までポリマーをPEGと呼び、高分子量のポリマーはPEOと呼ばれます。通常は水酸基末端を有するものの、機能性を付与するために多種多様な末端基での修飾が可能です。また、ポリエチレングリコールは親水性、生体適合性を示し、不揮発性、無味無臭で、毒性が少なく,FDA(米国食品医薬品局)に認可された化合物でもあり、一般的に免疫応答を誘発しません。このような特性から、医薬品や化粧品、生物学的用途をはじめとして、添加剤やバインダー、各種化成品原料などの多くの用途でPEGが使用されています。

DDSおよび組織工学分野での応用例

シグマ アルドリッチでは、様々な研究に適したPEG製品を提供しており、バイオコンジュゲーション9,ドラッグデリバリー3,表面機能化4,組織工学5、分子生物学、細胞培養、GC固定相、GPC分析用標準物質、ペプチド合成、タンパク質のX線結晶構造解析、界面活性剤およびdesigner surfactantなどに使用されています。我々のPEG製品の多くは、不動化や、タンパク質、ペプチド、その他高分子へのコンジュゲーションを行うために、機能性・反応性末端基で修飾されています。非PEG系の架橋剤や修飾剤と比較して、コンジュゲートの溶解度や安定性が向上し、毒性および免疫学的な影響を最小限に抑えることができます。ホモ二官能性(両端に同じ反応基を持つ)およびヘテロ二官能性(両端に異なる反応基を持つ)PEG架橋剤を使用することで、多様な長さと構造のポリマーが得られます。さらに、特定の異なる長さを持つPEG架橋剤が入手可能です。

  • バイオコンジュゲーション(PEG化):ペプチド、タンパク質、オリゴヌクレオチドなどの薬物ターゲットをPEGと共有結合させ、薬物動態特性を最適化します6
  • ドラッグデリバリー:抗体-薬物複合体(ADC:antibody-drug conjugate)のリンカー7として、あるいは全身への薬物送達を改善するためにナノ粒子の表面コーティング6として使用されます。
  • ハイドロゲル:架橋による3次元ネットワーク構築により、PEGは多量の水を含むことのできるハイドロゲルを形成します8。PEGハイドロゲルの形成は、電離放射線の照射や、PEGの反応性鎖末端を用いたPEGマクロモノマーの共有結合性架橋で開始できます。
  • その他:PEGはタンパク質の沈殿や、活性化によるポリペプチドとタンパク質の結合にも利用されています1,2

用途に合ったPEGの選択

ドラッグデリバリーや組織工学研究に用いるPEGを選択するには、一般的に4つの性質が考慮されます。

ポリマー構造

  • 直鎖状PEG:一般的に、ドラッグデリバリーシステム(DDS)におけるPEG化、架橋、コンジュゲーションに使用されています。
  • マルチアーム型PEG(4、6、8-arm):薬物送達や生体組織工学の用途で、架橋を行ってヒドロゲルや足場の作製に使用されています。
  • 分岐型PEGY型PEGは、その分岐構造により生体内での安定性が向上することからPEG化に使用されています。

分子量

  • PEG化:高分子量PEG(≥5,000)は、低分子量の薬物(低分子、siRNAなど)とのコンジュゲーションに使用されます。低分子量PEG(≤5,000)は、高分子量のタンパク質やペプチドのPEG化に使用されます。
  • 表面コンジュゲーション・架橋:分子量40,000未満のPEGを用います。
  • ハイドロゲル形成:分子量がハイドロゲルのメッシュサイズや機械的性質に影響を与えます。通常は、高分子量PEG(≥5000)が使用されます。

官能性

  • 単官能性PEG:化学的反応性を持つ末端基を1つ含んでいます。用途の例として、PEG化や表面およびナノ粒子の被覆などがあります。
  • 二官能性PEG:2つの反応性末端基を含んでおり、その種類が同じ場合(ホモ二官能性PEG)と異なる場合(ヘテロ二官能性PEG)があります。用途の例として、コンジュゲーションや架橋などがあります。

反応性

  • 共有結合性コンジュゲーション:NHS(N-ヒドロキシスクシンイミドエステル)基、チオール基、カルボキシ基のような反応性を示す末端基を持つPEGは、対応する官能基と共有結合性の結合を行うことができます。選択したコンジュゲーションの化学的方法に応じて、PEGの結合する位置や分子1個あたりのPEGの数が決まります。
  • クリックケミストリーアジド基アルキン基を持つPEGを用いた、コンジュゲーションやネットワーク構造を形成するための高速かつ選択性が高い生体直交型の方法です。
  • チオール基:汎用的な官能基で、PEG化ドラッグデリバリー3,4、ハイドロゲル形成5,6、チオール‐エン「クリック」化学5-8などで一般的に使用されます。
  • アクリラート末端Mono/Heterobi):反応条件が温和で反応時間が短い光重合法を用いて重合することが可能になります。

共有結合的な修飾を行うには、PEGや化合物の少なくとも一方の末端に反応基または標的化可能な官能基を含んでいることが必要です。官能基とは、化合物の他の部分と関係なく特徴的な化学反応を起こすことが可能な分子内の原子団を指します。一般的な官能基と、対応する反応基を以下に記載します。表内の太字をクリックすると該当PEG製品リストをご覧いただけます。

NHS: N-Hydroxysuccinimide
EDC: 1-Ethyl-3-[3-dimethylaminopropyl]carbodiimide hydrochloride
DCC: Dicyclohexylcarbodiimide

代表的なPEG製品

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References

1.
Ingham KC. 1990. [23] Precipitation of proteins with polyethylene glycol.301-306. https://doi.org/10.1016/0076-6879(90)82025-w
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Veronese FM, Largajolli R, Boccú E, Benassi CA, Schiavon O. 1985. Surface modification of proteins activation of monomethoxy-polyethylene glycols by phenylchloroformates and modification of ribonuclease and superoxide dismutase. Appl Biochem Biotechnol. 11(2):141-152. https://doi.org/10.1007/bf02798546
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Parveen S, Sahoo SK. 2011. Long circulating chitosan/PEG blended PLGA nanoparticle for tumor drug delivery. European Journal of Pharmacology. 670(2-3):372-383. https://doi.org/10.1016/j.ejphar.2011.09.023
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Manson J, Kumar D, Meenan BJ, Dixon D. 2011. Polyethylene glycol functionalized gold nanoparticles: the influence of capping density on stability in various media. Gold Bull. 44(2):99-105. https://doi.org/10.1007/s13404-011-0015-8
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Fairbanks BD, Schwartz MP, Bowman CN, Anseth KS. 2009. Photoinitiated polymerization of PEG-diacrylate with lithium phenyl-2,4,6-trimethylbenzoylphosphinate: polymerization rate and cytocompatibility. Biomaterials. 30(35):6702-6707. https://doi.org/10.1016/j.biomaterials.2009.08.055
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Jain N, Smith SW, Ghone S, Tomczuk B. 2015. Current ADC Linker Chemistry. Pharm Res. 32(11):3526-3540. https://doi.org/10.1007/s11095-015-1657-7
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Hermanson GT. 2013. Bioconjugate Techniques,. Burlington, Elsevier Science.. Available from: https://shop.elsevier.com/books/bioconjugate-techniques/hermanson/978-0-12-382239-0
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